■
「そろそろいいかな?」
「今なら出られそうだよ」
夜がふけた頃、いつもの講義で疲れているはずのティア達は寝ていなかった。
サラと二人ひそひそと話をしている。
思い立ったら吉日。今日から魔法の課外訓練をサラと一緒にやることにしたのだ。
連日の基礎の勉強の甲斐もあり、サラも理論上は基礎魔法を理解したらしい。
飲みこみの速さにはティアも驚きを隠せない。
まぁ、もともとが違うのだからそれもそのはずだが。
ティアとサラは音を立てないようにこそこそと寮の外へと出た。
秋も深まった季節、夜ともなれば肌寒い。
寮はもとより学園の領地内も明りは消され月明かりのみが二人を
照らしている。
「そういえば、昼間に他の学生の子に聞いたんだけど
少し離れた場所に魔法訓練用の草原とその先に塔があるらしいの。
その塔は今は廃墟になっていて生徒も滅多に立ち入らないそうだから・・・」
ティアがサラに言う。
「滅多にって?」
「肝試し。幽霊が出るって噂があるんだって」
そういって二人はくすくすと笑う。
サラの方は単に肝がすわっているだけだがティアにとってはフェン先生の
怖さに比べれば幽霊の一人や二人、対した事は無い。と思っているらしい。
「そこなら多少魔法で音を出しても先生とかには気が付かれないと思う」
ティアはそこでの訓練を薦めた。
「行こう!」
「・・・やれやれ、やっと動き出したか」
その様子をエルドラスは学院の院長の寝室の窓のカーテンの隙間から
見ていたが怒るどころか何故か安堵のため息を漏らした。
「ああ見えて実は結構忍耐強いと見える。あとはあの子の等の素質次第か・・・」
まるでこうなる事を予見していたかのようにエルドラスはつぶやき
ベッドに横になった。
■
廃墟の塔は生徒の話通り草原の先の森の中に寂しげに建っていた。
ティア達はあたりをきょろきょろと見渡しながら塔の内部へと入っていく。
入り口を入るとそこは広いホールになっていた。
塔の内部はまさしく廃墟という名に相応しいほど荒れていた。
かなり広いホールは塔の屋上まで吹き抜けになっているようだ。
壁面は所々崩れ、夜の月明かりが暗い塔の内部に光の筋となって差しこんでいる。
そのわずかに差しこむ月明かりで上の階と地下へと続く螺旋状の石階段が
あるのがわかった。
円柱形の塔の内側の壁面を利用した螺旋階段だ。
相当古いのか朽ち果ててしまったのか、階段には手すりのようなものは無い。
ティアは自分で提案したは良いものの、その塔の内部の様子から
幽霊が出ると言う噂がさらに真実味を帯びてきて寒気がした。
「うわ・・・、本当に幽霊が出そうな雰囲気・・・」
「バ、バカ!私は自分で見たもの以外は信じないよ!」
幽霊と言う言葉に反応したのかサラは一瞬声を荒げた。
強気の発言とは裏腹にサラも実は怖いようだった。
その時、がたっと床の石が崩れる音がした。
「!!」
「・・・!!」
二人とも悲鳴にならない声を上げた。
音のほうを見ると小動物らしき影が走り去っていくのがわかった。
「ネズミかな・・・?」
「あは、なんだー、驚かさないでよねー、全く!」
サラは引きつった表情で言うが気が付くと二人は抱き合っていた。
「あ、ゴメン・・・」
「いえ、こちらこそ」
サラは慌ててティアを離すと必死に謝った。
ティアは怖いと言うよりなんだか気恥ずかしかった。
ティアは意を決してふぅっと一息つくと、
まるで自分自身を説得するかのように言い放った。
「ここなら広いし、思う存分練習できるよ、ね?
もし噂通り、幽霊が出たらそれはその時考えよう!」
「う、うん・・・」
サラも苦笑いしているが覚悟を決めたようだった。
■
それからと言うもの、毎晩夜抜け出しては廃墟と化している塔で特訓は続いた。
しかし、落ちこぼれ魔術師と魔術初心者の独学では
そうそう上手く行くはずがないのは火を見るより明らかだ。
「きゃあ〜〜暴発〜〜!!」
「もう、これじゃあ目標に届く前にこっちが死んじゃうよ!」
ティアのファイヤーボールの魔法は手元で四方八方に飛び散り
ティアとサラの衣服や髪を度々焦がした。
以前、合宿所の部屋で起きたのと全く同じ状態で全く進歩していない。
これはこれで脅威だが相変わらず本来のものとは違う魔法になっている。
サラの方はサラで雨のハズが突然拳大のヒョウになったりと散々だ。
鈍い音を出しながら塔の内部に無数のヒョウが降り注ぐ。
「・・・まぁ解ければ水になるしね」
ちゃっかりと螺旋階段の下に避難していたティアはそう言うが、
フォローが下手過ぎてフォローになっていない。
「こんなのが人に当たったら死んじゃうよ・・・国の人間が全滅しちゃう!」
サラは息を切らし、その危険な物体をかわすのに精一杯だった。
人一倍俊敏なサラでさえかわすのがやっと。ティアなら間違い無く死んでいる。
そんなある晩の事。
「違うよっ!ここはこうだって!」
「そんな事言ってそっちこそ全然上手くいかないじゃないか!」
特訓をはじめて1週間ほど経つが二人の魔法は一向に上手く行かない。
日を増すごとにティアとサラの口論も段々と激しくなった。
「もういい!私一人でやる!」
「私だって!」
サラに愛想をつかされたティアはサラに背を向け一人でファイヤーボールの呪文を
唱え始めた。
同様にサラも水の呪文を唱え始める。
同時に拳大の火の玉がティアの目の前に現れた。
「あっ!」
驚きのあまり声を上げる。
「ねぇ、サラ!ほら、見て見て!」
ティアがサラに振り向くとサラの方でも小雨がぱらぱらと降っていた。
サラは驚きのあまりぼーぜんと立ち尽してした。
「よぉし!じゃあ次は照準を・・・」
ティアは出来あがった火の玉を数十メートル先にある積もった
石山に向けて飛ばしてみた。
綺麗な放物線を描いて岩の手前で四方に飛び散り轟音とともに燃え出した。
知識として知ってるファイヤーボールは直線で直接目標に当たるらしいが
どこで間違ったかどうやらこれはティアの癖らしい。
多少課題が残るがティアは初めてファイヤーボールの魔法を成功させた。
すぐにやんでしまったがサラの方も土砂降りの大雨が降った。
「やったー!」
ティアとサラは二人で手を繋ぎあってお互いの成功を喜んだ。
「ねぇ、もう一回やってみせてよ。私、さっきは良く見てなかったから」
サラがティアに催促した。
「まかせといて!」
意気揚々に答えたティアだが結果はいつもの暴発だった。
サラの方もやってみたが同じく失敗であった・・・。
「なんで・・・?」
二人はワケがわからず脱力感と共にその場にへたり込んでしまったのだった。
■
翌日、いつものように塔で特訓をしていると
廃墟のはずの塔に二人とは違う人影を見た。
「あっ!」
ティアが声を張り上げる。
「え?」
サラがティアの向いている方を振り向く。
「誰かいるよ、マズイなぁ、学院の生徒かな?」
肌寒いこの時期に肝試しをする変わった生徒でもいるのだろうか?
ティアとサラは崩れ落ちた石壁の影から人影の様子を伺った。
しかし、そこにいたのは老婆だった。
手にランプを持ちにこやかな顔でこちらを見ている。
「おやまぁ、こんな時間に何をやっているのかと思ったら・・・。
「おばあさん・・・?」
サラは老婆を見てつぶやいた。
「?(魔術師・・・?)」
ティアは老婆の服装を見てそう思った。
明りが少ないので細部まではわからないがかなり高位の魔術師のように感じる。
「それにしてもおまえさん達『私が見えるのかい?』」
老婆は二人の顔をランプで照らすとそう言った。
「はぁ?おばあさん、何ワケのわからないこといってんの?もしかして学院の関係者?」
サラはなれなれしくもふてぶてしく老婆に言い放つ。
「私はマリアベル。あなたの言う学院の関係者ではないから安心しなさい。」
老婆はマリアベル___確かにそう言った。
「なんだー、安心した。こんなところ見られたら怒られるに決まっているから」
「マリアベルさん・・・?」
ティアはその名に反応した。どこかで聞いた事がある名だ。それもつい最近。
極めてありがちな名である事に変わりは無いが何か引っかかるのだ。
そんなティアの表情を見てマリアベルという老婆は不思議そうな顔をした。
「そんなことより!ここって廃墟じゃなかったの?」
学院の関係者じゃ無い事がわかるとサラはさらに態度がでかくなった。
「廃墟といえば廃墟ね。もう何十年も前になるかしら・・・」
マリアベルは昔を思い出すようにそう言った。
「マリアベルさんはこのあたりに住んでいるのですか?」
ティアはマリアベルと名乗る老婆に聞いた。
「私の家はもう少し外れにあるわよ。
何故か今夜は眠れなくてね、夜風をあたりに散歩していたのよ。
そうしたらあなた達を見かけてね。そう、魔法学院の生徒なのね?」
マリアベルはにこにこしながら、時折納得するような感じで話している。
敵意はないけどこう警戒心も無いのもなんだか変な感じだ。
サラはそう思った。
「そうだわ、あなた達も一緒にお茶でもどうかしら?」
マリアベルは相変わらずにこにこしながらそう二人を誘った。
■『導師マリアベル』
マリアベルの家は質素だった。
はやり魔法の関係者なのか棚にはいくつもの小瓶や魔法の品々が陳列されていた。
ティアは実家の母の仕事が魔法薬剤師(一般的には錬金術師ようなもの)
なのでその辺はいくらか詳しい。
「そこに座って待ってて」
マリアベルはそう言うとポットからお湯を注ぎ紅茶をいれ始めた。
「マリアベルさんって、その、魔術師なんですか?」
ティアはもじもじと迷ったが質問をぶつけて見た。
「さっきから何か聞きたそうな顔してたからおかしいと思ったわ。
「ごめんなさい、ちょっと気になったんで」
「うそ!おばあさん魔術師なの?」
サラは魔術師だと知ると急に敬語になり頬を掻いている。
「そうねぇ、自慢では無いけどまぁ、一般的にはそう言う事になるかな」
マリアベルはティアとサラの前に紅茶を置くとにこにこしながらそう答えた。
とても良い香りのするハーブティーだった。
香りだけでも連日の疲れと眠気が一気に安らいだ。
「おいしい!」
サラはハーブティーを一口含むと声を張り上げた。
「ほんと!こんなに美味しい紅茶を飲むは初めて!」
紅茶にうるさいティアもお気に入りのようだ。
「気に入った?」
「はい!」
「こんな夜中に付き合わせてしまって悪いわね。
それにしてもあなた達あの塔で何をしていたの?」
マリアベルの問いにティアとサラは苦笑いしながら今までのいきさつを話した。
紅茶のせいだろうか、本当は話さないほうが・・・とも思ったが
不思議と心を許してしまう。
なによりマリアベルという老婆は聞き上手なのだ。
ティア達も人に聞いて貰えてなんだか心がすっとした。
「そう、魔法の練習をね・・・」
マリアベルはにこにこしながらつぶやいた。
「ねぇ、ティア、せっかくだから魔法の事教えてもらおうよ!
ね、おばあさんいいでしょ?私達を弟子にして!!」
サラは調子に乗っている。
「私が教えられるのは・・・そうねぇ」
サラの言葉に一瞬びっくりしたマリアベルだったがすぐににこやかな表情に戻り
口元に手をあて、何やら考えるような仕草をしはじめた。
「ね?」
サラは身を乗り出してマリアベルに言う。
「魔法って・・・そう!このハーブティーみたいなものかな」
「ハーブティー??」
ティアはあまりにも突飛なその答えに眉をひそめた。
「つまり組み合わせ次第で何通りにもなるし、
おいしいものも作れるし、失敗する事もあるって事?」
サラが口を出した。流石にティアとは違う。
「ああ!」
ティアはその比喩表現を何となく理解した。
「そう。
目的達成の為とはいえ、ある特定のものばかりを見ていたら絶対に答えは出ないわ。
関係無いと思われる意外な部分、ティアにはサラの、サラにはティアの魔法が
成功における重要なヒントになるかもしれないわね」
マリアベルは言葉を選ぶように言った。
答えは知っているけどあえて答えは出さないようにしているようだ。
「なんで雨を降らすのにティアのファイヤーボール、火の魔法が??
わけわかんない!」
マリアベルの言葉にサラは毒気づいた。
そんな様子を見てマリアベルはくすっと笑った。
「それが魔法と言うものよ。さぁ、そろそろ戻らないと大変よ?」
話しこんでしまったのか気が付くと夜が明け始めていた。
帰り際、マリアベルは二人に一つづつ赤い宝石のはめこまれた金色の指輪を手渡した。
「これ、私からのプレゼント。魔法がかかっているわけでは無いけど
良ければ御守りにでもしてね」
「え?いいのですか?」
ティアは驚いた。初対面の人間からこのようなものを貰って良いのだろうかと。
「ありがとう、綺麗〜」
サラは早速指にはめた。
「一晩とはいえ、私のお弟子さんですものね?」
マリアベルはにこやかに微笑んだ。
■
翌朝(といっても徹夜だが)、
ティアとサラは眠気眼をこすりながら何事も無かったかのように
昼間の基礎講義に出る。
エルドラスもいつも通りに講義をしていたが
ティアとサラの指にはめられた指輪を見ると何かを決心したように二人に言った。
もちろん連夜の特訓の存在はエルドラスは知っている。
「夜遊びでもしたか?」
「え?ししししてませんよ。滅相も無い・・・」
思いっきりどもっている。バレバレだ。
「おまえ達はそんな状態でまともに講義を受けられるのかね?」
確かにここに来ての寝不足がちょっとヤバイ。
「よろしい。では今日はゆっくり休みなさい」
エルドラスは本を閉じた。
「あ、あのー、講義の方は・・・?」
ティアは恐る恐る聞いてみた。
本来なら願ったり叶ったりなのだが今日に限っては始まって三十分も経っていない。 いつもなら終わりの十分とか早く終わる事はあっても始まったばかりで終わるのは
ティアにとっては解せなかったのだ。
「ティア、せっかく休んでいいって言ってるのに余計な事を言わないの。
先生の気が変わったらどうするのよ!?」
サラがこそこそとティアに耳打ちする。
「ふむ。ではこうしよう。いつも基礎ばかりやってつまらないだろうから
特別に今日は実技に絡んだ話でもしようか」
エルドラスが我ながら名案だと言わんばかりに満足げな面持ちだ。
「あ、ほら!もう!」
サラは膨れ顔だ。
「サラは確か砂漠に雨を降らせるのが目的だったな」
「はい?」
「雨はどうやって出来ると思うかね?
まぁこれは魔法とは関係無く気象の問題だが・・・」
「大気中の水蒸気の塊が・・・そう、雲とか?」
「うむ。これは意外と勘違いされがちなのだが物質魔法というのは
決して無から有が作られるわけではないんだな」
「といいますと?」
「当然、水がなければ雨は降らない」
「はぁ?何当たり前の事言っているんですか?
あそこには水が無いから雨を降らせたいんですよ!」
サラは呆れ顔だ。
エルドラスの話にあごに手をあて考えていたティアが口を開いた。
「サラ、ちょっと待って。これって・・・」
「え?」
ティアの様子を見てエルドラスはニヤリとした。
「さて、今日はこれくらいにしておこうか。
明日からは通常通り基礎講義を行うのでそのつもりで」
エルドラスはそう言うと講義室を出ていった。
「ねぇティア?さっきの話ってどういうこと?」
「うん、まだ仮説だけどね・・・続きは夜にあの場所で・・・
今は休みましょ」
マリアベルの言葉、先ほどのエルドラスの言葉、この二つの言葉から
ティアはある予測をたてていた。これが正しいと言う事になれば
昨日一度だけ成功した魔法の理由も説明がつく。
「なんだかなー」
サラはふてくされていた。
■
その日の夜、ティアとサラはあの塔に来ていた。
今日は仮眠をしたのでティアもサラも元気一杯だ。
「つまりね・・・」
ティアは順を追うようにサラに説明をする。
「私のファイヤーボールの場合は『無』から『火を出す』のではなくて
燃やす為の『環境』が必要になるのよ。
サラの場合はエルドラス先生の言った通り『水が無いと雨は出来ない』」
ティアはサラにそう説明する。
「___つまり私のファイヤーボールを成功させるには、
『空気中から水分を無くして着火しやすい環境を作る』事!」
「あっ!」
その言葉でサラは理解した。
マリアベルの言った、『ティアの魔法にはサラの魔法がヒントになる』というのは
この事だったのだ。
ティアはそう言うとファイヤーボールの呪術体形を描きながら呪文を唱え始めた。
『ruuhufureimumaruhuha-』
呪文を唱えると拳大の火の玉がティアの目の前に現れた。
ティアはその火の玉を飛ばした。
火の玉は綺麗な放物線を描いて岩の手前で四方に飛び散り轟音とともに燃え出した。
ちなみに四方に飛び散るのはティアのクセだ。
しかし驚くべきはその威力。
新しい理論で放った魔法は前に成功した時の倍以上はあると思われる。
その成功にティアはニヤリとした。
答えは簡単明解な事だったのだ。
サラの場合はティアの逆をやれば良い訳だ。
サラは空気中の水分を集める呪文体形を唱えた。
もちろん通常、このようなものは単体としては
教科書には載って無いのでオリジナルの理論魔法だ。
サラが呪文を唱え始めると空気中にやや小ぶりの雲のような水蒸気の塊が現れた。
刹那激しい土砂降り。雨はほんの一瞬でやんでしまったが成功だ。
ティアとサラはびしょびしょになりながら大きな声で笑い始めた。
嬉しくて仕方が無い。
当初の目的ってなんだっけ?と思わせるほど清々しい気分だった。
「ねぇ、サラ、これをもっと大きい範囲で唱えればもっと雨が増やせるかもね」
「でもさ、あまりやりすぎると空気乾燥してヤバくない?
火事になったら元も子もないし・・・」
「それじゃあさ、もっと遠くの水の豊富なところから頂戴するってのはどうかな?
例えば海水を蒸留して塩分を抜けば・・・あ!」
ティアは自分で言いかけてはっと気がついた。
「ハーブティー!!」
ティアとサラは声を合わせて言った。
これが後にティアの最も得意とする『組み合わせ・アレンジ魔法』の魔法理論になった。
■
ティアとサラはその足で、マリアベルの家へと向った。
魔法が成功した報告をする為だ。
「確かここだったよね?」
ティアはあたりを見まわしながらサラに言った。
「多分間違い無いけど・・・」
マリアベルの家があったその場所には朽ち果てたボロボロの家が一軒あった。
放置されて何十年下手したら百年は経っているのかもしれないという有様だ。
当然屋根なんか無い。
「え?これって一体・・・?」
ティアは目を真ん丸にしてつぶやいた。
結局、その周辺を探してもそれらしい家は見つからず
マリアベルとは会えずじまいで二人は合宿所の寮へと戻っていった。
翌朝のエルドラスの講義。
「さて、今日も基礎魔法の講義を・・・」
エルドラスは意気揚揚と二人に言いかけた。
「先生、あの一つ質問が・・・」
その言葉をさえぎったのはティアだった。
「なにかね?」
エルドラスは話の腰を折られ少しふてくされている。
「先生はこの学院の院長になってから長いのですよね?」
「そうだが、それが何か?」
「塔の先の森の・・・」
ティアが言いかけたのをサラがさえぎる。
「(ダメだよティア、聞いたら抜け出したのがばれちゃうじゃないか!)」
サラはティアにこそこそと耳打ちしている。
その様子を見たエルドラスはニヤリと微笑んでこう言った。
「あの森には誰も住んでおらんぞ」
「え・・・?」
ティアの質問を察したかのようにエルドラスはそう答えた。
「お前らの行動はお見通しだよ、私が気がつかなかったとでも思ったのか?」
「・・・はい?」
二人はきょとんとしている。
「そうだ、今日は面白いお話をしてあげよう。魔法史のお話だ。」
突然エルドラスがそう切り出した。
「さて、諸君らはレステンシア王国にある『魔術師の町』と言うのを知っているかね?」
ティアは聞いた名だと思った。
というかティアがルウェンに来る前に通った町だ。
「あ、私ここに来る途中に通過しました」
ティアが言う。
「うむ、その町にはかつて『偉大な魔術師』がいて魔術師発祥の地と呼ばれたほどだ」
「はい、その町のお爺さんがなんかそんな事言っていたような・・・」
ティアはそう答えるがサラには何の事だかさっぱりなので
サラは二人のやり取りをおとなしく聞いている。
「うむ、ではその町の開祖は誰だか知っているかな?」
エルドラスはニヤリと微笑んでこう言った。
「えっと確か・・・」
ティアは記憶の置く底の情報を引き出そうと考えている。
エルドラスは相変わらずニヤリとしてあごひげを自慢げにさすっている。
マリアベルさんと違って嫌味な笑い方だなとティアは思った。
ティアはそう思ってはっとした。
「ん?マリアベル?」
「ティア?どうしたの?」
サラがティアの顔をのぞきこむ。
「マリアベル・・・『魔術師の町』の開祖・・・」
ティアはつぶやいた。
なんでこの名前を忘れていたのだろうか?
あの時、マリアベルさんの名前になんか違和感があった。
「マリアベルは旅の最終地点にここルウェンを選んだ。
隠居したのがお前等が夜な夜な遊びに行ってたあの塔のある『森』だよ」
エルドラスはそう言った。
二人は身の毛がよだった。
「・・・もしかしてさ、もしかと思うけどマリアベルさんって・・・」
「生徒たちが言ってた噂の塔に出る、ゆ、幽霊?!」
ティアとサラがどもりながら口をそろえて叫ぶ。
「はっはっは、幽霊か?いい得て妙だな」
エルドラスは笑った。
「わ、、笑い事じゃないですよ!」
二人は涙目になって反論する。
「魔法学院のルウェン校ができたのは導師マリアベルがいたからとも言えるんだよ。
まぁこの学院の原点だな。
知ってのとおりフォールハウトが自治国になる前は
レステンシアの領土だったからな
名前こそ分校になってしまったがここルウェン校の方が歴史上は
イフローラ本校より古いんだよ」
マリアベルという名は無かったものの歴史云々はティアも本校で習った。
「なんで歴史の古い方が本校じゃないんですか?」
サラが素朴な疑問をぶつける。
「母体がレステンシア王国だって事への配慮だな。王都の方が分校じゃ
顔が立たないだろう」
「ふーん」
サラはそんなのどっちでもよいじゃんって顔をしている。
「話を元に戻すが、お前等が会った導師マリアベルは思念だろうな。
でもまぁ、そう怖がる必要は無い。お前等のその指輪はニセモノか?
運良く彼女に会えたとしてもその指輪を貰ったものはごくわずかだよ」
「うん、思念でも幽霊でもどっちでもいいや、
おばあさんは間違い無くいい人だったのにはかわりないからね!」
「そうそう、マリアベルさんみたいな幽霊ならまた会いたいな・・・」
ティアはサラはお互いの指にはめられた指輪を見て微笑んだ。
_____『マリアベルの指輪』
その指輪を貰ったものは後に必ず成功すると言う。
エルドラスはそれは言わなかったがこの二人の行く末を楽しみにしていた。
■
合宿が終わりサラは国に帰っていった。
フェンはイフローラの魔法学院に戻ったティアを優しくむかいいれた。
エルドラスから大体の話は聞いている。マリアベルに会ったと言う事も。
「良く頑張ったわね」
フェンはティアにねぎらいの言葉をかけた。
「はは、疲れました。まさに地獄の合宿でしたよ」
「ほう、その割には嬉しそうだな?」
「お友達も出来たし、いいこともありましたから♪」
ティアは微笑んだ。
「それにしてもまさか、ティアがねぇ・・・。あのばあさん、粋な真似を・・・。」
「え?なんですか?」
ティアはフェンの言葉に問いかけた。
「ん?いや、奇しくも私がティアの兄弟子になってしまったと言う事だ」
そう言ってフェンは自らの右手をティアに見せるようにしてくすりと微笑んだ。
「あっ!」
フェンの薬指にも”あの指輪”がはめられていた。
「あ、それは・・・まさかフェン先生も・・・?」
『_____私も合宿経験者、マリアベルの生徒だったのよ』
思い出のカレッジリング その3へつづく
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