SP03 これが私の生きる道 2



講義内容はアレンジ魔法理論。

ティアは『レスティア=ヴァル』という偽名で講義を行なっていた。
今更文句を言っても仕方ないと思い、腹をくくったのだ。
もちろん魔法は絶対使わないという条件付きだが。

しかし、学院を首席で卒業したとはいえ元々は落ちこぼれ、
教える立場になったからといってそれが上手く行くとは限らない。
どちらかと言えば話が上手とか説明が上手という方が先生としては向いているのだ。

案の定、判り難いという声が生徒からあがる。
ティアの場合は勉強と言ってもドーピングというか
理解への工程が大きく飛躍してるので順を追って説明するのが逆に困難な感じだ。
極論だが、コツさえつかんでしまえば割と簡単な理論なので尚更だ。

「うーん、なんて言えばいいのかな・・・」
ティアは思ったことを上手く伝える事が出来ず頭を悩ませている。
試しにマリアベルやエルドラスを真似てみたが意味不明だと尚更言われた。

生徒たちには当然ティアは素性を偽って隠しているわけだが
これが最年少で宮廷魔術師なった人物と知ったらきっと幻滅するだろう。
事実そういった、高位の魔術師に憧れて学院に入学する者も少なくない。

エレーヌも頭に「はてなマーク」がついているようだ。
まぁエレーヌの場合は落ちこぼれなのでティアの説明が上手だとしても
たいして変わらないだろうが。

エルドラスはというと講義室の後ろで黙って聞いているだけで助け船などは
毛頭出すつもりは無いらしい。ティアが困っているのを見て楽しんでいるようだ。

「ああ、これじゃあ生き地獄だよ・・・」
上手い話には罠がある。ティアは物凄く後悔した。

そんな中、生徒の一人が質問する。
「先生は『失われた魔法』についても研究してますか?」

講義内容とは関係無い質問だ。
むしろその逆、『失われた魔法』については禁忌の物が多いので
本来なら口にすることさえタブーな内容だ。

学生ならではの質問だがエルドラスは少し顔をしかめた。
ティアは宮廷魔術師だった事もあり、当然知っている。
しかしタブーだと言うのは知っているので当然答えない。

「『失われた魔法』が何を差すのかは知らないわ。
仮に知っていたとしても”タブー”には答えられないわ。」
ティアはあえて嘘をつき、毅然とした態度で却下する。

「わかりましたー。残念ですー。でも使えたらカッコよいと思わない?
無敵の魔法で魔族をばったばったと倒すの!」

やはり好奇心だったらしい。
聞けば今巷で流行の冒険小説でそのような表記があるらしい。

現代で言えばアニメの主人公に憧れるようなもので
魔術師を目指す生徒たちにはその作品の魔術師はある意味ヒーローだったのだ。

ティアはそれなりに見聞は広いが盗賊見習いとして食いつなぐのが必死だったので
最近のサブカルチャーには疎かった。
そんな事もあってその内容が少々気になった。

「小説と現実を混同するのも良く無いと思うけど・・・。
もし知ったとしてもそう言った魔法は使わないほうが身の為よ」

ティアは老婆心ながらそう言うがその言葉に生徒は反論した。
「そんなの使ってみないとわから無いじゃない!
 それとも先生は使ったことあるんですか?」

「えっ、それはその・・・」
確かに体験談であれば説得力もあるが、
やったことも無いのにやらない方が良いってのもおかしい。
ティア自身、実際には使ったことは無いが一度フェンと共に魔族と戦った時に
目の当たりにした事はある。

「これこれ、あまりレスティアさんを困らせてはだめだぞ」
明らかに顔色が変わったティアを見てエルドラスがやっと口を開いた。

「院長先生はどうなんですか?」
「ワシか?そりゃあ、まぁあるぞ」
タブーな質問にあっさり答えやがった。じじい。とティアは呆れた。

「しかしだ。『魔法学院はそういう事を教えるところでは無い』」
エルドラスは生徒を睨んだ。

「うっ・・・。」
気迫に押されたのか生徒は言葉を詰まらせた。
かつてフェン先生の師匠だという話は聞いた事があったがティアも
その形相に一瞬かつてのフェンを思い出し青ざめた。

「では、こうしよう。幸い、講義はアレンジ魔法だ。
例えばそう、害の無いもので『明かりの魔法』を『矢』のように
飛ばして見るというのはどうだね?」
エルドラスは時々関係あるような無いようなとんでもない事を言い出す。
こう言うところは昔と変わりないようだ。

「へぇー面白いかもね」
「今までアレンジ魔法でそういうのって考えた事無かったよ」
「やってみようか?」

生徒たちが急にざわめき出した。
その様子を見たティアは確かに遊び心もあるし
アレンジ魔法を教えるのにはうってつけだと思った。
同時にやはりこのエルドラスという人物は流石だと悔しく思った。

「それでは、レスティアさん、後はよろしく〜」
エルドラスはそういうと講義室を出て行ってしまった。

ティアは息をすぅっと吸いこむと口を開いた。
「じゃあ、誰か試しにやってみようか?できそうな人いる?」


あれからのティアの講義は好評だった。
ティアは元々アレンジ魔法の理論に長けていたから
きっかけさえつかめばとてもやりやすかった。

反面、基礎魔法の先生などからは基礎魔法をアレンジしだす生徒が増えたと怒られた。
生徒たちが、普通なら有り得ないへんてこな魔法を編み出すものだから
授業にならない、などなど。
それほどまでにいつしか生徒達の間ではアレンジ魔法がブームになっていた。

エレーヌは友人と話していた。
「レスティア先生って学者にしては堅物じゃないし面白いよね?」
「そりゃあ・・・」
言いかけてエレーヌは口を閉じた。
ティアの正体を知っているのはエレーヌとエルドラスだけだ。
エルドラスからも厳重注意されている。

「私も好きだよ。レスティア先生の講義」
エレーヌはそう答えた。


「え?小説ですか?」
「うん、私も読んでみようかなって」
ティアは生徒たちで話題の本が無いかと学院図書館の司書のチェリオに聞いた。

「ああ、あれ面白いですよね。私もファンですよ〜。
確かここにもありますよ」

小説はシリーズ物で現在は第3巻目まで出ているとの事だ。
貸し出し用の小説を手渡されたティア表紙をめくりながら言った。
「これが人気なんですか?」

「新作が出るやいなや飛ぶように売れるって話よ。
 魔法に対して物凄くリアルな描写があるしそれも受けている要因なのかな?」

「ありがとう、読んでみるね」
ティアはお礼をいい、寝泊りしている部屋(教員用の寮の空き部屋の一つ)に戻った。
ベッドに寝転ぶと早速借りてきた小説を読み始めた。

内容は一人の魔術師の男と一人の女の剣士がコンビを組んで魔族と戦うといったもの。
変わっているのは男性の魔術師はかつて世界中に名を馳せた剣士で、
逆に女性の剣士は世界中に名を馳せた魔術師だということだ。
話は自分に無い技能に憧れた二人が職業チェンジ後に出会ったところから始まった。

変な設定だなーとティアは思った。
ティアだって魔術師の中では最高位の『宮廷魔術師』を経験していて
今は『盗賊』に憧れている意味ではこの小説の主人公と大差はないだろう。
もし仮にティアが剣士を目指していたら丸っきり小説の主人公と同じだ。

ティアは小説を読み続けた。
当初は気なる程度で読み始めた小説だったが読めば読むほど、
その内容の面白さにすっかり虜になってしまった。

そして問題の生徒が言っていた例の「失われた魔法」の記述があるシーン。
ティアは読む進めていくうちにぎょっとした。

オブラートに包んではいるようだが見る人が見れば(魔法が上級者レベルであれば)
下手すれば具体的にわかってしまうほど
フィクションにしてはあまりにも的を得ていて詳しすぎる。

「これが民間に出回っている内容・・・?」
推測や偶然でたまたま似てしまったというレベルではない。
明らかに作者が相当魔法に長けていて「失われた魔法を知っている」。
そう感じた。

作者の名は「セロドール」。恐らくペンネームだろう。


翌日、ティアはチェリオに本を返しにいった。

「チェリオ、これありがとう」
「もう読んだの?どうだった?」
「とても面白かったわ」
「ふふ、でしょう?」

「ところでチェリオ、チェリオはこの小説の作者に詳しい?」
「え?そこそこは。
 あ、っていうかもしかしてレスティア、興味持っちゃった?」
チェリオはにんまりしながらティアもといレスティアに問い詰める。

「まぁ、興味っていうか」
ティアはしどろもどろになりながら答えた。

「詳しいと言っても、この作者は本職は別にあるらしくて
 メディアにはあまり出てこない人みたい。
 本当なら先月末に最新刊が出る予定だったんだけど
 本職の都合かなんだか延期になっちゃってね。あー、発売が待ち遠しいわ。」

「へぇー、本職ねぇ」
その話が本当なら予想通り作者は魔法関係者か。
とは言えその手の失われた魔法に近い人間はこの国でもごくわずかだ。
仮にフェン先生なら当然知っているけどこのような物を書く人間とは思えない。

「ふむ、面白そうな話をしているな」
突然声をかけてきたのはエルドラス院長だった。

「あっ、院長先生!」
チェリオはサボっていると勘違いされたら嫌だと焦った。
「ああ、別にかまわんよ」

「エルドラス先生、ちょっと・・・」
ティアは院長にひと気のない廊下に出るように促した。

「何か気になった事でもあったのかね?」
「実は例の冒険小説を読んだのですが、記述があまりにも詳しいと言うか・・・」

「ふむ、このまま放置しておくことはできないというわけか。
 ふふ、宮廷魔術師でもないお前が今更国や世間体の心配か?」
エルドラスは半分笑いを込めて嫌みったらしく言った。
その言葉にティアははっとした。

「なあに、彼なら大丈夫だよ」
エルドラスはそう答えた。
「え? もしかして作者とお知り合いなんですか?」
ティアは聞き返す。
「まぁな。大体あの内容だ。作者は魔法関係者だというくらい察しは付くだろう?
ティア、お前もそれで気になっていたんじゃなかったのかね」

「はぁ、そうですけど」
「それにしても段々と”先生”が板についてきたじゃないか?
 なんならこのまま正式な講師にでも・・・」
エルドラスはあごひげをさすりながらニヤリとした。

「じょ、冗談じゃないです!あくまでも短期バイトですから」
言葉を詰まらせながらそう言うと、
ティアは顔を紅潮させその場から早足で立ち去った。


これが私の生きる道 その3へつづく

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